経験は積み重ねるのみ。いまのわたしにしかできない役割

さらっこについて

経験値の低さがコンプレックス

学童保育や障がい者支援施設で子どもたちと接するようになってから、初めにぶつかったのは若さによる経験値の低さでした。人と人とのかかわり合いのなかで信頼関係を築いていく、いわばマニュアルのない世界。初めは戸惑うことばかりで、入職して早々、壁にぶつかりました。

彼は新小学1年生のA君。じっとしているのが苦手で、自由時間と集団活動などの切り替えができないことから集団行動に馴染めていませんでした。自分の気持ちに正直で、たのしいと思ったことは、ルールや時間に関係なく続けてしまう傾向があります。とても甘えん坊で女の子や大人の懐に入るのが上手な一方、自分の気に入らないことに対しては感情のコントロールが利きません。暴力をふるうことで、周りから”怖い”と勘違いされ避けられてしまうのです。しかし、彼は大人の様子をよく見て行動するという賢い面ももち合わせていました。

子どもが見透かしていたわたしの自信のなさ

その日もA君は集団行動から外れ、1人ふざけていました。クラスの皆が彼を待っていても遊び続けます。そこで彼を引き止め叱ると、彼はわたしの顔に唾を吐き笑いました。彼は冷静に人を見る目がある。おそらく年齢も若く、わたしの自信のなさを見透かしていたのかもしれません。その夜、わたしは「決してほかの職員にはしないのに、なぜ自分だけ?バカにされている」と悔しくて泣いたことを覚えています。

しかし、彼もコントロールできない自分の行動に苦しんでいたかもしれません。いま思えば、わたしは”バカにさえたくない”という思いが先行し、彼の気持ちに寄り添えていなかったのだと思います。A君は診断名がつかないグレーゾーンと認定され、小学校・中学校は普通級に通ったのち、徐々に衝動性は治まっていきました。

コンプレックスを武器に変えて

わたしの経験値の低さは、子どもたちだけでなく保護者の皆さんにも不安を与えていたかもしれません。「子育てをしていないとわからないこともある」といわれたこともあります。もちろん親としての立場や経験を伝えることはできません。しかし、経験は積み重ねであり、昨日今日で急に変わることではありません。地道に経験を積み重ねていきながら、いまのわたしにしかできない役割があると考え、子どもたちとのかかわり方を模索していきました。そこで見つけた唯一の武器は、子どもたちと年齢が近いこと。彼らと近い感覚をもっていることを活かして、もっとも身近な存在になろうと決めました。

この仕事をとおして、わたしはたくさんのことを子供たちから教えられました。その1つが”誰しも輝ける場所がある、必ず居場所があるということ”です。発達課題をもつ子どもは、ほかと比べると苦手なこともありますが、必ず長所や特技があります。また、人とトラブルになることも多いかもしれませんが、必ずわかり合える人がいます。それと同様に、わたしたち職員にも個性や役割があり、それぞれが違ってよいのだと感じたのです。

職員としての経験を積むのには時間がかかります。しかし、ベテランの職員ばかりが揃えば安心というわけではなく、人間関係を築いていくうえで、子どもたちもさまざまな人とかかわり合っていくことが大切だと感じます。こうして彼らは、わたしのコンプレックスをポジティブに変換し、前向きに働けるようになりました。

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